--------------------------------------------------------------------------------
◆チェスターストーリー 第6話 ★焦燥☆
制作者 なをき
--------------------------------------------------------------------------------
この場所に一人の若者がいた。
場所といっても存在じたい曖昧な空間である。広いようで狭く、狭いようで無限に広く感じる。
彼・・・彼とよべるかどうかわからないが、その若者はこの星の誕生とともに、そこに存在し続けている。
彼の名はオリジン。
この星の秩序と安定を監視するものである。
彼は思う。
いままで思うなどいうことはしなかった。
いくら無限の時間の狭間に存在しているといっても、そんなことは無駄である、と考えていた。ある人間たちに会うまでは。
彼ら・・・クレスたちに出会って、自分は変わってしまったと本人も理解していた。
(ふふっ・・・私も人間に感化されるとはまだまだだな・・・)
だが、悪い気持ちではなかった。むしろ今までよりも充実している。
”自分はなぜ存在するのか”
そんな誰もが抱く疑問を、初めて心に思い浮かべ何をするでもなく、ただ空間を漂っていた。
自分は、この世界の安定を守るために、創造神が作り出した精霊であることは知っていた。
だが、それだけでは心は満たされない。
(ふぅ・・・やめよう・・・考えてもしかたのないことだ・・・)
そして、彼は再び瞑想に入った。
瞑想を行うことで、彼は世界を見ることができる。
(ん・・・?)
瞑想により、何者かがこの亜空間に入り込んでいることを関知した。
そして、彼はそれが誰なのかすぐに理解した。
「勝手に人の領域に入るとは、無礼な輩だな」
誰もいない空間に向かって話しかけるオリジン。
「ふふふ・・・ずいぶん不用心だな。さっきから黙って見ていたが何か考え事でもしていたのかな?」
声の主は、姿も見せずオリジンに話しかける。精霊に対して「考え事か?」と、聞くなど皮肉以外の何ものでもない。
「まぁ、そんなところだ。私の寝首でもかきにでもきたのか?魔王プルートよ」
同じく皮肉を返すオリジン。
「まぁ、そう言うな。久々にかつての仲間に会いに来たのだ」
そう言って、オリジンの前に姿を現すプルート。
「ふっ・・・仲間か・・・」
「魔族である私が仲間ではやはり気に入らぬか・・・」
世界樹の力であるマナを嫌う魔族と、その力を守る存在である彼らは、本来敵対する。
初めはオリジンも、プルートと気軽に話せる間柄ではなかった。むしろ敵意を持っていた、と言った方が正しいだろう。
「そんなことはないさ・・・それでいったいどうしたというのだ・・・まさか、茶飲みをしに来たというわけではあるまい・・・」
「うむ・・・ひとつ話しておきたいことがあってな・・・」
「どうしたと言うのだ・・・」
「我らが住む魔界も人間界同様いくつかの支配者がいて国のような構造をしているのは知っているな・・・?」
「ああ・・・」
魔界の王といっても、プルートが管轄しているのは、ごく一部にすぎない。モーリア坑道の地中深く付近が、その勢力圏だ。
「実は他国の魔族の中に不穏な動きがあった」
「不穏な動きだと?」
これに対しオリジンは、オウム替えしに問いかける。
「ああ・・・かつて大陸を荒らし回っていた狂戦士ベルセルクは知っているな?」
「ああ・・・」
「その魔物が再び何者かの手によって復活しようとしている」
「なんだと!?」
はるか昔、古代文明が栄えていたころ大陸を震え上がらせた魔物がいた。そのころは、発達しすぎた文明が人々の心を荒ませ、マナの力は枯渇されかかっていた。
これを機に、魔族の中には世界を我が物にしようとするものが現れたのだ。その中でも最強の魔族が、ベルセルクであった。その魔物は、神の聖戦士ジークフリートの手によって滅ぼされた。彼の命と引き替えに・・・
「今の世界はマナに満ちあふれている。そう心配することもなかろうが一応忠告しようと思ってな・・・」
「・・・・」
「仮に復活できたとしても以前のような強さは発揮できないだろう」
「・・・ああ・・・そうだな・・・一応感謝しておく」
「なに、大したことではない。用事はそれだけだ・・・では失礼させてもらうぞ・・・」
そう言い残すとプルートは、亜空間から姿を消した。
クレスたちは部屋で休んでいた。
「ねえねえ、クレス」
「ん?なんだい?」
アーチェの問いかけに、答えるクレス。
「チェスターのやつどこ行ったの?」
「え!?・・・ああ・・・その・・・散歩だよ」
「本当に〜?」
クレスは、とっさに嘘をついたが、相変わらず嘘が苦手なようだ。彼の誠実さがうかがえる。
「あの・・・なんだか外が騒がしいようですが・・・」
ミントが、窓の外を見て話しかけてきた。
それと同時に、部屋の扉が開き、ロバートが入ってくる。走ってきたのか、息が上がっている。日頃、部屋に閉じこもりきりのためとも、言えなくもないが。
「はぁはぁ・・・大変です!みなさん!」
「どうしたんですか?ロバートさん」
「実は・・・・」
ロバートは、孤児院の子供が誘拐されたことを、クレスたちに話した。
「なんだって!」
「迂闊でした・・・エリス殿ではなく子供を狙われるなんて・・・」
ロバートは口惜しそうに言った。
「それでチェスターはどうしたのよ!?」
「はい、先にローンバレイへ一人で向かわれたそうです」
「私たちも行きましょう」
「ああ!」
「我々の私設の騎士たちも向かわせます」
先ほど外が騒がしかったのは、騎士たちが庭に集まっていたからだろう。
「いえ・・・相手を刺激しないために少人数で行った方がいいと思います。せっかくですが・・・」
「そうですね・・・わかりました。では馬だけでもお貸しします」
「助かります」
クレスが礼を言う。
「あたし・・・一足先に行ってるね!」
アーチェは、箒をどこからともなく出現させ、窓から出て行こうとした。
「ああ!でも気を付けろよ!」
「うん!」
そう言うなりアーチェは、上空高く飛んで行った。
「私たちも出発しましょう」
「よし!」
クレスたちは、武器と必要最低限の荷物を持って、部屋を飛び出した。
ローンバレイの山脈には、昔魔界に通じていたと呼ばれている洞窟があった。
今でも、そのときのように魔物が徘徊していると恐れられ、近づく者は滅多にいない。
エリスは、その洞窟へと足を踏み入れた。不安なのか、その足取りは重い。
洞窟を進んでいくと、二人の見知らぬ男が待ちかまえていた。
「・・・あの・・・」
エリスは、男たちに向かって声をかけた。
「金は持ってきただろうな・・・?」
この言葉を聞いてエリスは、この男たちが誘拐犯だと確信した。
「どうして、このようなことをするのですか・・・?」
エリスは、勇気を振り絞って男たちに意見した。
「・・・・こっちへ来るんだ」
だが男たちは、エリスの質問には答えず歩き出した。
エリスは、思わず立ち止まったままでいた。
「どうした・・?ガキを返してほしく無いのか?」
「わかりました・・・」
エリスは、男の後を追って、洞窟の奥へと進んでいった。
しばらく進んで行くと、開けた場所に出た。
そこには、数人の男と身なりの良い男がいた。身なりが良いと言うより、下品に装飾品を身につけているだけだが。
「ジャガー様、女を連れてきました。」
エリスを連れてきた男の一人が報告する。
「おねがいです!さらった子供を返してください!」
エリスは男たちに向かって言った。
「ふっふっふ・・・まさかお前が来るとはな・・・」
「え?」
エリスは何のことを言われたのかわからず、ただ聞き返すだけだった。
「はっはっは!何もかも私の思い通りと言うわけか!」
すると突然、エリスのそばにいた二人組の男が、エリスを拘束した。
「な・・・何をするのですか!?いたっ・・・」
腕を乱暴に締め上げられたエリスは、強い痛みを感じたようだった。
「ふっ・・・わからぬか?私の目的は初めから金でも孤児院の土地でもない、お前だ!」
「え・・?あたし・・・?」
「おまえこそ、魔王の復活に欠かせないにふさわしいのだ。魔王の復活に欠かせない清き乙女の生け贄にな!」
ジャガーは、エリスに対し冷たく言い放った。
チェスターは、焦る気持ちを押さえ馬を走らせていた。
本当なら、馬を全速力で走らせたい。しかし、それではかえって到着時間が遅れてしまう。
橋にさしかかったころ、ようやくローンバレイ渓谷が見え始めた。
(まだだ・・・まだラストスパートには早い・・・)
「チェスター待って〜」
空から、聞き慣れた声が聞こえた。アーチェである。
だが、チェスターはかまわず馬を走らせ続ける。
「ちょっと!無視しないでよ!」
横に並んだアーチェが、チェスターに向かって言った。
「何言ってんだ!止まってるひまなんて、ねえんだよ!」
その言葉を聞いて、アーチェは黙り込んでしまう。
アーチェが言葉を発したのは、しばらく進んでからだった。
「ねぇ・・・そんなにその娘のことが気になるの?」
「・・・」
エリスのことを言ってることはわかっていたが、チェスターは何も答えなかった。
「ねぇ!答えてよ!」
「うるせぇな!お前には関係ねえだろう!」
「な・・・なによ・・・なによ!」
アーチェは、涙ぐんでチェスターに言い寄った。
「・・・そんなにあの娘が大切ならあんた一人で行けばいいじゃない!あたし行かないからね!」
「・・・」
「・・・」
「・・・勝手にしろ!」
しばしの沈黙のあと、チェスターはそれだけ言い残し、馬を全力疾走させた。
さすがのアーチェでも、馬の全力疾走には追いつけなかった。
「なによ!チェスターの馬鹿!」
アーチェは、チェスターの方角に向かって涙声で叫んだ。
続く
あとがき
話がいきなり急展開してしまいましたね。(おまえが書いたんだろ)
たびたびすいませんがアーチェファンの方ごめんなさい。
もしよろしければ、ぜひ感想をお聞かせください。