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◆チェスターストーリー 第7話  ★悪しき闇の魔族☆ 制作者 なをき

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 ローンバレイ渓谷は、夕方から夜へと移り変わろうとしていた。
 地平線の向こうから、かすかに光がもれる程度で、辺りは夜の闇が支配しようとしていた。
 そのローンバレイ渓谷を、ひた走る若者がいた。チェスターである。
 馬から降りたチェスターは、必死に走った。
 暗い山道も、彼には何の障害にもなっていないようだ。
(ちきしょう!もう日が沈んじまった!)
 それは、すでにエリスが先に来てしまったことを表していた。
 時間が短く感じる。必死に走っているにも関わらず、全く進んでいない錯覚に陥る。
 まるで、いつも彼を悩ませる悪夢のように・・・




 エリスは、祭壇の上にある冷たい石の寝台に、横たわっていた。
 その寝台のまわりには、魔法陣が描かれている。
 手足を拘束された彼女は、ただ黙っているしかなかった。
 彼女は、自分がもう助からないと感じていた。
 彼女は、自分が歩んできた人生を思い浮かべる。
 幼いころ事故で両親を亡くし、兄とともに孤児院で育った。
 決して裕福ではなかったが、多くの仲間に囲まれ幸せだった。
 昔の友も、それぞれの人生を歩んでいることだろう。
 やがて兄は、ユークリッド王国騎士団に入隊したが、原因不明の事故でこの世を去った。今でも彼の死の真相は、わからないままだった。
 そして、エリスの心をとらえて離さない存在は、チェスターであった。
 彼と出会ったのは、昨日のことだったが、エリスは彼に会いたかった。
(チェスターさん・・・最後に・・・あなたにもう一度・・・会いたかった・・・)
 今まで感じたことのないその想いは、彼女の心を苦しませた。
 エリスは、いつの間にかあふれ出た涙を止めることはできなかった。


 チェスターは、物陰に隠れ様子をうかがっていた。
 本当なら、今すぐ飛び出してエリスを救い出してやりたかった。
 しかし、今飛び出したところで、彼女と子供の両方を救うことはできない。
 強襲するのは最後の手段だ。
 きっとクレスたちが来てくれる。
 彼の性格を考えれば、正面から突っ込んで来るに決まっている。
 クレスに注意を引きつけてもらって、敵の隙をつこうというのだ。
 友を利用するようで申し訳ないが、それが最善策だと彼は考えていた。
(待ってろよ・・・今助けてやるからな・・・)
 チェスターは、焦る気持ちを抑えエルヴンボウを強く握りしめた。


 横たわるエリスに、一人の男が近づいて来た。
 ジャガーである。
「気分はいかがかな?」
「・・・」
 彼の問いに答えず、だまり続けるエリス。
「ふん・・・ずいぶん気丈な娘だ・・・」
「・・・どうしてこのようなことを・・・」
 エリスは、ジャガーをにらみつけた。
「くっくっく・・・お前のような凡人にはわかるまい・・・」
 下品な笑いを浮かべ、話し続けるジャガー。
「・・・」
「私はこのときをずっと待っていたのだ・・・」
 誰に聞かせるでもなく、ジャガーは話し続ける。おそらく、自己満足に浸っている、と言った方が正しいだろう。
「ダオスを蘇らせるため、マルスの馬鹿者を利用したまでは良かったがあの無能者・・・私欲に駆られ先走りよって・・・」
 エリスの周りを、意味もなくうろつき話し続ける。
「そういえばお前の兄がその頃に騎士団にいたな・・・」
「え・・?お兄ちゃんが・・・?」
 エリスは、突然兄の話をされ戸惑った。
「私の計画を知って離反しようとしたのでな・・・抹殺してやったわ!」
「うそ・・・そんな・・・」
 エリスは、兄の死の真相を聞かされ呆然とした。
 いつも自分を支えてくれていた兄という存在はエリスにとってかけがえのない人だったのだ。
「前回は失敗したが・・・今度こそ・・・富と権力をこの手に掴むのだ・・・ふっふっふ・・・はっはっは・・・」
 洞窟にジャガーの声がこだました。


 チェスターは、怒りを押さえるのがやっとだった。
(それじゃ、あいつが・・・アミィを・・・・トーティス村のみんなを・・・・許せねぇ・・・)
 チェスターは、今すぐにでもジャガーに矢を放ちたかった。
 しかし、まだ動くわけにはいかない。
 彼は、己の怒りを自制させた。


「そろそろ時間だ・・・」
 ジャガーは周りに控えている男たちに向かって指示した。
「はっ・・・」
 魔術師のような男が6人、エリスを取り囲むように立った。
 ちょうど魔法陣の要所に立つ形になる。
 彼らが呪術の詠唱に入ると、魔法陣がかすかに輝く。
 それだけではなく、空間が裂けおぞましい地鳴りが響く。
 エリスは、ことの成り行きを黙って見守った。
「魔王ベルセルクよ、汝にあい願う」
 ジャガーは虚空に向かって叫んだ。
「盟約に従い汝を呼び寄せたり!」
 そう叫ぶと地鳴りが収まり、低い声が洞窟に響きわたる。
「イケニエヲ・・・」
「わかった・・・」
 そう言って、魔術師の一人に合図を出す。
「やれ!」
 ジャガーに指示された魔術師の一人が、銀色に光る剣を取り出す。
(チェスターさん・・・さようなら・・・)
 エリスはチェスターのことを想いきつく目を閉じた。
 その剣を持ってエリスに近づき、剣を振り上げる。
 しかし、その男は剣を振り下ろすことはかなわなかった。
「やめろ!」
 叫び声とともに、どこからともなく飛んできた矢がこめかみに刺さり、一撃で絶命した。
 さらに、立て続けに放たれた矢が、エリスの周りにいる魔術師たちをしとめていく。
「何者だ!」
 ジャガーは、声のした方角に向かって叫んだ。
「ひいいいっ!」
 しかし、魔術師たちが断末魔の表情で死んでいるのを見て、情けない悲鳴を上げて逃げ出す。
「チェスターさん・・?」
 エリスは自分が夢を見ているのではないか、とさえ思った。
 しかし、今自分の元へ駆けつけてくれているのは、紛れもなくチェスターその人であった。
「今助けるぞ!」
 エリスの元にたどり着いたチェスターは、彼女に向かって話しかけた。
「あたし・・・あたし・・・もうだめかと・・・チェスターさん・・・」
 チェスターは、エリスを拘束していた留め金を外した。
「逃げるんだ!」
「でも・・・まだ子供たちが・・・」
 エリスは立ち上がったが逃げだそうとはしなかった。
「その通りだ・・・・」
「・・・ニゲレバガキノイノチナイ・・・」
 二人組の男女が話しかけてきた。
 先に話しかけたのは、女の魔術師だった。
 彼らはそれぞれ子供を拘束している。
「エリスお姉ちゃん!」
「ミーナちゃん!サリアちゃん!」
 エリスは、捕らわれている二人の少女の名を呼んだ。
「そこの男・・・弓矢を捨てろ・・・」
 再び女魔術師が話しかける。
「チェスターさん・・・」
 エリスはどうして良いかわからず、チェスターの名を呼ぶ。
「・・・」
「はっはっは!形成逆転のようだな!」
 ジャガーは人質の前に躍り出た。
「・・・」
 だがチェスターがとった行動は全く逆だった。
 チェスターは素早く弓を構えると、狙いをジャガーの眉間に定めた。
「悪いがそれはできない!」
 チェスターはこのまま武器を捨てれば全滅すると判断し、大胆な賭に出た。
「ひいいっ!」
 ジャガーは再び情けない悲鳴を上げる。
「なに・・・?」
 女魔術師が怪訝な顔を浮かべる。
「動くな!この間合いなら確実にあの世行きだ!」
 ジャガーは横に逃げようとした。
 ビュン!
「うぐあああああ!」
 ジャガーは悲鳴をあげ倒れた。
 チェスターが放った矢が足に突き刺さった。逃げられなくさせるためだ。
「動くなと言ったはずだ!」
 すかさずチェスターは矢を構え、再びジャガーの頭に狙いを定めた。
「子供に指一本触れて見ろ!てめぇらの主があの世行きだ!」
 チェスターは、子供をとらえている男女に向かって叫んだ。
「やめてくれ!」
 ジャガーはチェスターが本気だと感じ取り、悲痛な声で叫んだ。
「ふっ・・・好きにしろ・・・」
 ところが、女魔術師は驚きもせず淡々と告げた。
「な・・・なんだと!?」
 そう叫んだのはジャガーだった。
「ここまでしてもらえば、もうお前に用はない。」
 ジャガーの方に向かって言い放つ女魔術師。
「あとは我々でベルセルク様を復活させるまでだ・・・」
 女魔術師がそう言うなり隣の男は、ジャガーを持ち上げ祭壇から放り投げた。
「うわあああ!」
 ジャガーは、叫び声を上げたきり動かなくなった。
「さあ・・・どうする?構えた矢で我らをしとめてみせるか?一度にできればだがな・・・・」
「・・・」
 男女には全く隙がなかった。仮に、どちらかを倒せても、残った方が人質を殺すだろう。
「くっ・・・」
 チェスターは言われたとおり構えを解き、弓と矢を放り投げた。
「おい・・・お前たち・・・この男をやれ」
 女魔術師は、周りにいた男たちに向かって言い放った。
「だが・・・」
 男たちは、ジャガーが倒されたためか、不安げにつぶやいた。
「心配するな・・・お前たちまで裏切るつもりはない。ジャガーが用意した金をお前たちにすべてやろう。どうだ?」
 女魔術師は、魔術で虚空より金貨を出現させ、男たちの前に降らせた。
「へっ・・・そういうことなら、なにも問題はないな・・・」
「ああ・・・この男にはたっぷりお返しをしなくちゃいけないしな・・・」
 金を拾いきった男たちは、チェスターを取り囲んだ。
「チェスターさん!」
 エリスは、チェスターの元へ駆け寄ろうとした。
「オマエハコッチダ」
「あっ!」
 エリスは、子供を拘束していた男に捕らえられてしまった。
「おまえはそこで、あの男が苦しめられる姿を見ているがいい・・・くっくっく・・・悲しみの心が加われば、より生け贄にふさわしい・・・」
「おらぁ!」
 男たちは、手に持った武器でチェスターを殴りつけた。
「くっ!」
 チェスターは、男たちの攻撃を防ぎながら、どうすれば良いか考えていた。
(俺の背中には折り畳んだ予備のセルフボウ・Sがある・・・これでなんとかするしかない!)
「チェスターさん!」
 殴られ続けるチェスターを見て、エリスは叫んだ。
 さらに、情け容赦なく攻撃を加える男たち。
 さすがのチェスターも、全ての攻撃を防ぎきることはできなかった。
 顔面を強打したため、のけぞり返って倒れてしまう。
「お願い・・・もうやめて!」
 エリスは悲痛な声で叫んだ。なにもできない自分が悔しかった。
「ふっ・・・もうガキにも用はないな・・・」
 チェスターが倒れたのを見計らい、女魔術師は少女たちを祭壇から突き落とした。
「きゃ!」
「ミーナちゃん!サリアちゃん!」
 エリスは少女たちの名を叫ぶ。
 少女たちは、体を打ち付けながら、祭壇の下へ落下した。
「インデグニション!」
 それを見計らったように、どこからともなく魔術が炸裂した。
 チェスターは、無差別魔法を遮断する障壁を、身にまとったような感触を得た。
「ぐあああ!」
 チェスターたちを取り巻いていた男たちに向かって、神の雷が直撃する。
 その一撃で男たちは全員倒れた。
「なんだと!?」
 女魔術師は突然の出来事に驚いた。
「チェスター!今よ!」
 たった今魔術を使った女・・・アーチェはチェスターに向かって叫んだ。
「わかった!」
 チェスターはすかさず走り込み、エリスを掴んでいる男に体当たりをくらわせ、ひるんだ隙に弓を組み立て紅蓮を放った。
 彼の放った闘気の炎は、男の体に直撃する。
「グハァ!」
 焼けただれた男の胸部から、緑色の血が滴り落ちる。どうやら彼らは魔族のようだ。
「エリス!今だ!逃げろ!」
「は・・・はい!」
 エリスは、チェスターに言われたとおり祭壇をおりた。
「チェスター!あたしが決めるから援護して!」
「わかった!」
 そう言ってアーチェは、呪文の詠唱を始めた。
 チェスターは女魔術師に牽制のため疾風を放つ。
 チェスターは、まるで弓を自分の体の一部であるかのように扱い、連続して矢を放った。
「くっ!」
 女魔術師は矢を避けきれずに倒れた。
 牽制どころか今ので致命的なダメージを与えてしまったようだ。
「す・・・すごい・・・」
 エリスは今まで見たこともないチェスターの弓術に驚いた。
「グアア!」
「させるか!」
 チェスターは、再び立ち上がろうとした男に再び紅蓮を放った。
 しかし、これで隠し持っていた矢はすべてなくなった。
 先ほど疾風を使ってしまったのは失敗だった。
「お・・・おのれ!ファイアーボール!」
 なんとか立ち上がった女魔術師は、アーチェの詠唱をくい止めようと小技を放つ。
「やらせるか!」
「な・・・なに!?」
 チェスターは、自ら火の玉に飛び込み、それを阻止する。
 多少ダメージを受けたものの気にせず、再び妨害しようとした男魔族に、体当たりをくらわせた。
 二人の魔族はチェスターによって、完全に行動を封じられてしまっていた。
 そこへアーチェの魔術が襲いかかる。
「ビックバン!」
 目映い閃光が洞窟を覆う。
「うぐわああああ・・・・・・」
 アーチェの放った魔術は、魔族たちを跡形もなく吹き飛ばした。
「やったのか!?」
「うん!」
 アーチェは、チェスターに対してVサインを送った。



                                             続く


あとがき
 今回は戦略的な戦闘を描いてみました。いかがでしょうか?
 回をかさねるごとにあとがきが短くなっているような・・・まっ!いいか!(いいのか!?)
 もしよろしければ、ぜひ感想をお聞かせください。

                


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