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◆チェスターストーリー 第9話 ★決戦☆
制作者 なをき
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虚空より現れた魔王ベルセルクは、獣のような咆吼をあげ、祭壇を破壊した。
その動作は、まるで己の肉体の苦痛を、紛らわせるためのようだった。
「ごほっ・・・ごほっ・・・」
二人の少女は、苦しそうにせき込んだ。
あたりに充満している魔界の空気である瘴気が、少女たちを苦しめる。
「ロバートさん、この子たちとエリスさんをよろしくお願いします!僕たちはやつを倒します!」
「わかりました。みなさん、お気をつけて・・・」
クレスに言われた通りに、ロバートはエリスを担ぎ上げ、少女を連れて洞窟を出ようとした。
「おっと・・・逃げられると思ってるのかい?」
ロバートの行く手を遮ったのは、先ほどアーチェに倒された女魔術師だった。
「え!?そんな・・・あんた死んだんじゃなかったの!?」
アーチェは驚きの声を上げる。
「ふっふっふ・・・甘いわね・・・我ら魔族は、瘴気に触れれば、何度でも蘇れるのさ!」
そう言うと、女魔術師は洞窟内に倒れている死体に向かって、呪術をかけた。
すると死体たちはゆっくりと起き上がり、焦点の定まらない目でクレスたちを見た。
まだ息があった男たちも、体が腐り始め、醜い骸と化した。
女魔術師が使ったのは、ネクロマンシーと呼ばれる禁術だ。
禁術には主に二通りある。あまりに威力が強すぎるもの。それと、あまりに非人道的な魔術だ。
ネクロマンシーは後者に該当する。死者を冒涜する行為は、あまりに卑劣な行為だ。
「お前たち!あの女を殺せ!その魂をベルセルク様に捧げるのだ!」
女魔術師はエリスを指さし、ゾンビたちに指示を出した。
「何だって!?そんなことはさせるかよ!」
チェスターは、怒りをこめた口調で叫んだ!
「ロバートさん、安全な場所に避難してください。ここは僕たちにまかせて!」
「わかりました!」
クレスに言われ、ロバートは再びエリスを担ぎ少女たちを連れて、洞窟の隅に移動した。
「よし!みんな!一気に片を付けるぞ!」
「おおっ!」
クレスの指示は適切だった。辺りに充満している瘴気のせいで、戦いが長引けば不利になるのは目に見えていた。
「みんな!あたしが魔術で一掃するから援護して!」
「わかった!」
「任せろ!」
アーチェは箒にまたがり、少し上昇した。これで、ゾンビの攻撃を心配する必要はなくなった。
クレスはベルセルクに向かい合い、チェスターは女魔術師を牽制した。
もし少しでもアーチェの妨害をしようものなら、矢を放つつもりだ。
しかし、女魔術師は余裕の笑いを浮かべ、呪文の詠唱どころかただ立っているだけだった。
「やあ!」
クレスは、ベルセルクに向かって、剣を振りかざした。
「次元斬!」
クレスの剣が鮮やかな蒼に包まれた。
クレスはそのまま光をたたきつけた。
ベルセルクの肉体は元々腐っていたため、クレスの斬撃を受けるたびに、腐らせた肉片を地面に落とし、苦痛を表す咆吼をあげた。
「なに!?」
しかし、すぐに傷は癒え効果的なダメージを与えることができない。
それどころか地面に落ちた肉片が、動物の死骸に変わり動き始めた。
「エクスプロード!」
アーチェは、ゾンビに向かって魔術を放った。
荒れ狂う炎が、ゾンビたちを焼き尽くした。
「あとはお前だけだ!」
チェスターは、女魔術師に向かって叫んだ。
「ふっふっふ・・・分からない奴だな・・・何度でも蘇れると言わなかったか?」
「なんだって!?」
チェスターは、たった今アーチェが吹き飛ばしたゾンビたちを見た。
どう見ても完全に倒れている。
しかし、次の瞬間、さっきまで燃え尽きていたはずのゾンビたちがゆっくりと立ち上がり、再び歩き出した。
「そんな!なんで!?」
アーチェも、信じられないと言わんばかりに声を上げた。
「ふっふっふ・・・さっきまでの元気はどうした?なんなら、もう一度試してみるか?」
女魔術師は、さらに余裕の表情を浮かべた。
ゾンビたちは、エリスの方へ向かって、再び歩き始める。
しかし、次の瞬間、再びゾンビたちは吹き飛ばされた。
「オリジン殿!」
ロバートが指示したわけではないが、オリジンは戦闘に参加していた。
オリジンが放った虚空の衝撃を受け、ゾンビは肉片をばらまき砕ける。
「ふっ・・・私とてただの飾りではないからな・・・」
オリジンは誰に言うとでもなく言った。
しかし再び肉片が集まり復活しようとした。
「クレス殿!奴は普通の攻撃では倒せない!剣で切っても敵を増やすだけだ!」
「なんだって!?」
「じゃあどうすればいいんだよ!?」
「これを使うんだ!」
そう言うと、オリジンはチェスターに向かって、銀色に輝く矢を2本放り投げた。
いつもオリジンが両手に持っている物に材質が似ている。
「これは!?」
「それは時空間を切り裂く時空の矢だ!奴の心臓は異次元に隠されている!これでなければ奴は倒せない!」
「わかった!」
チェスターは時空の矢を左手の籠手に納めた。これでここぞというときに使うことができる。
「何だと!」
彼らの会話を聞いた女魔術師は余裕の表情から、驚きの表情へと変えて言い放った。
「ベルセビースト!」
女魔術師が叫ぶと、男の魔族が起きあがり、訳の分からない言葉をまき散らす。
やがてその男の体は、獣のように変貌を遂げた。
「ベルセビーストよ!そこの弓使いを殺せ!」
「コロス・・・コロス・・・ゴロズ・・・グガアアア!」
ベルセビーストは咆吼を上げ、チェスターに向かって突進した。
「させるか!」
すかさずクレスが、ベルセビーストの前に立ちはばかる。
「すまない!クレス!」
チェスターは、ベルセルクに向かって時空の矢を構える。
「おっと!待ちなさい!私から目を離していいのかしら?」
「なに!?」
チェスターは思わずそちらを見た。
女魔術師は、魔術の詠唱を終え、呪術を放った。
「サモンデーモン!」
空間が裂け、魔人が召還された。
狙いはチェスターではなくエリスたちだった。
チェスターは、反射的に現れた魔人に向かって、構えていた時空の矢を放った。
魔人が開いた空間の歪みは、時空の矢の力により無効化された。
空間の歪みは消えたことにより、魔人が姿を現すことはできなくなった。
チェスターが放った矢が、時空の矢だったことは、不幸中の幸いとでも言うべきだろう。
しかし、チェスターはベルセルクを攻撃することができなかった。
もしベルセルクを狙えば、再びエリスたちを狙われる危険性がある。
オリジンならともかく、エリスや少女たちは魔人の力には耐えることはできない。
時空の矢を構えたとたん、女魔術師は再び妨害してくるだろう。
時空の矢は、あと一本しか残っていない。絶対に外すわけにはいかないのだ。
しかし、チェスター以外にベルセルクを倒せる者はいない。
クレスの時空を操る魔剣エターナルソードは、すでにクラースとオリジンの手によって、封印されてしまったのだ。
今クレスが使っているのは、エクスカリバーと呼ばれる聖剣だ。
切れ味はエターナルソードに劣ることはないが、ベルセルクにとどめをさすことは絶対にできない。
(くそ・・・どうすればいいんだ・・・)
クレスはベルセビーストを抑えている。
アーチェとオリジンは、ゾンビの足止めをしなくてはならない。
どちらかでも欠ければゾンビを抑えることはできないだろう。
エリスと子供たちを守れなければ意味はない。
ミントは回復で精一杯のようだし、もとより戦闘には不向きだ。
特に苦しい戦いを強いられているのがオリジンだった。
彼の力の源はマナの性質だ。
相反する性質の魔界の瘴気が充満している空間では、実力を発揮しきれていない。
それどころか彼の体力は徐々に失われていった。
「時空蒼波斬!」
クレスは、ベルセビーストを倒すと、チェスターに駆け寄り、牽制を変わろうとした。
「チェスター!今だ!僕が援護している間に・・・」
「ホロビヨ・・・ブラックホール・・・・」
しかし、ベルセルクの放った漆黒の闇が一気に広がり、クレスとチェスターを包み込んだ。
「うわあああっ!」
「ぐあっ!」
不十分とはいえベルセルクの放った魔術が彼らの体力を根こそぎ奪った。
「クレスさん!チェスターさん!」
すかさずミントが法術の詠唱を始める。
「ふっ・・・終わったな・・・貴様ら、これ以上ベルセルク様の御身に傷を付けることは許さぬぞ!」
女魔術師は、クレスたちにとどめをさすために、呪文の詠唱を始める。
「死ね!サモン・・・ぐはっ・・・なに!?」
女魔術師は最後まで魔術を詠唱することはできなかった。
「へへ・・・させるかよ・・・」
「おのれ!」
気力を振り絞り立ち上がったチェスターの矢を受け詠唱を中断させられてしまった。
「・・・まだ負けるわけにはいかない!」
クレスもチェスターと同じく気力で立ち上がる。
クレスはそのまま女魔術師を攻撃しようとするが、女魔術師は魔術で上空に逃げてしまった。
「くっ・・・貴様ら、化け物か?」
「・・・リザレクション!」
なんとかミントが回復呪文をかけるが、その間にベルセビーストが復活してしまう。
「くっ・・・」
一方オリジンは、先ほどの闇の波動の余波を防ぐために、結界を張っていたため、彼の力はさらに奪われてしまっていた。
もしオリジンが結界を張らなければ、エリスたちを守れなかっただろう。
さらに追い打ちをかけるように、ゾンビたちはオリジンに襲いかかる。
オリジンも、なんとか力を振り絞って反撃をした。
しかし、オリジンの放つ波動の力は、低下してしまっているため、ゾンビを倒す速度が落ちてしまっていた。
「きゃああああ!」
「なに!?」
洞窟内に響いた悲鳴は、ロバートの後ろに隠れる少女のものだった。
いつの間にか後ろに回り込んだゾンビが、エリスの服を掴んでいた。
「エリス!」
チェスターは心底焦って叫んだ。なんとかエリスを守るためにゾンビに矢を放とうとした。
それを見て、アーチェの表情が少し曇った。しかしアーチェはすぐに戦闘に気を集中させた。
「あたしに任せて!」
アーチェが放った炎により、なんとかエリスを掴んでいたゾンビを焼き払う。
しかし、オリジンの隙をついて、ゾンビたちがエリスの周りに集まる。
しかし、次の瞬間ゾンビは突然現れた紫に光る炎により、一瞬にして灰と化した。
「ふっ・・・苦戦しているようだな・・・」
「プルートか!?」
オリジンは、誰もいない空間に向かって叫んだ。
たった今、滅びの炎を放ったのは、プルートのようだ。
「私も特別に手を貸してやろう・・・」
声と共に空間からプルートが姿を現した。
「どういう風の吹き回しだ?」
「なに・・・魔界の安定のためとでも言っておこう・・・」
つまりベルセルクは、魔界の他国からも警戒されているほど、危険な存在なのだ。
魔族の中にも、平和と安定を望む者は、数多くいる。
「・・・一応感謝しておこう・・・」
「・・・ここは魔界の瘴気が充満している・・・私に任せて休んでいたらどうだ?」
「ふっ・・・冗談ではない・・・お前こそ油断するなよ・・・」
「心得た・・・」
相変わらずの皮肉混じりの会話を終えた彼らは、再びゾンビに向かって攻撃を開始した。
プルートはオリジンの数倍の速さで、ゾンビを倒していった。
魔王の名は伊達ではないようだ。
「みんな!もう一回あたしを援護して!」
「わかった!」
プルートが参戦したことにより、自由となったアーチェが、クレスとチェスターに言った。
「ふっ・・・何をしても無駄だ・・・」
女魔術師は嘲け笑う。
その間クレスは、ベルセルクとベルセビーストの二体を抑える役に回った。
「魔神剣!」
つかず離れずの戦い方で、何とか一対一の状態を維持しながら、クレスが奮闘する。
「ビックバン!」
アーチェは魔術を放った。
洞窟内に目映い閃光が走る。
しかし、アーチェが狙ったのは天井だった。
洞窟の天井には夜空がうかがえた。
「どこ狙ってんだよ!」
チェスターはアーチェを非難するが、アーチェには作戦があった。
「お願い!もう一回援護して!」
アーチェは再び魔術の詠唱を始める。
「馬鹿め・・・太陽の光でも望んだのか?」
女魔術師は再び嘲け笑う。
もし太陽の光があったなら、ゾンビたちを消滅させることも望めたかもしれない。
だが今は夜だ。
「鳳凰天駆!」
クレスは、再び魔術を唱えようとしたベルセルクに、上空から炎をまとって体当たりをあびせた。
しかしクレスも、徐々に体力を失ってきた。
しかも運悪く、着地した場所が、ベルセビーストの攻撃範囲内だった。
「グガアア!」
「くっ・・・」
ベルセビーストは、クレスに襲いかかる。
なんとか防御できたものの、ベルセビーストの爪がクレスの腕を引き裂く。
傷は浅いが、ピンチであることに変わりはない。
「アーチェのやつ・・・いったい何を考えてんだ?」
チェスターは女魔術師を牽制しながら呟いた。
「ゴッドブレス!」
アーチェは、ベルセビーストに向かって魔術を放った。
アーチェが開けた天井の穴から、激しい風圧がベルセビーストを襲う。
しかし、さして威力は無いようだ。
これなら、ビックバンを直接当てた方が、威力は強かっただろう。
「クレス!今よ!」
「えっ!?」
「そうか!そういうことか!」
ロバートは、アーチェの行動を見て、全てを理解した。
彼は召還呪文の詠唱を始める。
一瞬にせよベルセビーストの周りには、マナを含んだ空気が満ちている状態になった。
アーチェの狙いは、空気の入れ替えだったのだ。
ベルセビーストは、マナの力により脱力してしまう。
しかし、この一瞬を見逃すクレスではない。
「冥空・・・斬翔剣!!!」
クレスが渾身の力をこめて放った光の剣が、ベルセビーストを切り裂いた。
「グオオオオオオン・・・・」
魔獣の咆吼と共に、ベルセビーストの肉体は、完全に真っ二つになった。
今度はそう簡単に復活はできないだろう。
「シルフ!」
ロバートの召還により現れたシルフたちは、洞窟内の瘴気をすべて外に追い出した。
ローンバレイは、元々シルフが多く存在する場所だ。
つまり、シルフの力が最大限発揮される場所である。
これで、ベルセビーストが復活する事はできなくなった。
オリジンもマナの力を得て、本来の力を取り戻した。
己の身体二つにわけたオリジンは、先ほどまでの数倍の威力の虚空の衝撃を、ゾンビたちにおみまいした。
「くらえ!」
天を裂く稲妻のような波動が、左右から同時にゾンビたちに襲いかかった。
「グガアア・・・・」
二人のオリジンが放った稲妻は、一撃で全てのゾンビたちを葬り去った。
ゾンビたちは今度こそ復活することなく、完全に塵と化していった。
「そ・・・そんな・・・馬鹿な・・・」
女魔術師は、驚きを隠せず、狼狽しきってしまう。
「よし!あとは俺に任せろ!」
チェスターは、時空の矢を構え、ベルセルクに狙いを定めた。
「や・・・やめろー!」
女魔術師は、チェスターに向かって叫んだ。
「ファイアボール!」
チェスターを援護するアーチェ。
「くっ・・・」
女魔術師は、手を出そうにもできなかった。
「愚かなる者よ・・・滅びるがいい・・・」
「うっ・・・うああああ!」
プルートの放った滅びの炎が、女魔術師の体を包んだ。
断末魔の悲鳴と共に、女魔術師の肉体は燃え尽きた。
「これで・・・終わりだ!!うおおおっ!」
チェスターは、ベルセルクに向かって大牙を放った。
チェスターの放った時空の矢は、空間を引き裂きベルセルクの心臓を貫き破壊した。
「グガアガアアアッ!アガアアアアアアッ・・・・」
激しい爆発と獣のような咆吼と共に、魔王ベルセルクは再び闇の中へとその姿を消した。
続く
あとがき
ここまでおつきあいしてくださった読者のみなさん、本当にありがとうございました。
次回はいよいよ最終話です。どのような結末が待っているのか・・・おたのしみに!
もしよろしければ、ぜひ感想をお聞かせください。